ram’s blog

本と映画と絵画をこよなく愛する日々の記録

堀田善衛『時間』

なんだか忙しいだけの一日でした。

時間 (岩波現代文庫)

堀田善衛の『時間』をやっと読み終えました。といっても、なかなか一行一行精読することができず、斜め読み、拾い読み、という有様だったのですが。

それだけ硬質な文体で書かれていて、容易に入り込んでいけない、「壁」がそこにはあるのでした。

南京大虐殺』という対象を、妻子を殺された中国人男性を主人公に据えて、これでもか、という勢いで書ききったこの小説が、1955年に発表されていた、というのには驚かされました。

辺見庸の解説によると、当時、多くの人に読まれた割にはある意味で黙殺された、と言う風に読み取れることが書いてありました。

もしかしたら、もう一度、腰を落ち着けて読むかも知れません。が、ひとまず率直な感想を言えば、この作品のある種の「硬さ」は、堀田善衛の持つヒューマニスティックな理念が、一人の中国人男性である主人公を食い破って、前面に出すぎた結果なのではないか、と感じました。

やはり、堀田善衛は物語上の人物の姿を借りるよりも、一つ次元の離れた斜め上の高さから、あれこれ好き勝手に語っていく方が、より豊かに全体を描ける作家なのだと思います。それこそ後年築き上げた彼のスタイルだったのでしょう。