ram’s blog

本と映画と絵画をこよなく愛する日々の記録

加藤典洋『村上春樹は、むずかしい』

加藤典洋村上春樹は、むずかしい』を読みました。

村上春樹は、むずかしい (岩波新書)


村上春樹は言うまでもなく、底の浅い作家ではない、気取った会話や、すぐ寝る女の子ばかり書いて、リリカルなだけで人間を書けていない、軽くて中身のない作家なんかではない。いかに先鋭的に、ときに時代を先取りしながら、誠実に小説の自己変革に打ち込んで、奥深い作家になっていったか、ということを、実に明快に、それこそ本当に誠実に書いた、好著でした。

実際に、加藤典洋という批評家を、亡くなって2年近く経つ今、とても信頼できる人だ、と感じました。

そして、存命中にもっと深く読んでおきたかったし、亡くなった今となってはなおさら、ただの文章以上に『書き遺された言葉』として、直に心に通じてくる気さえします。


これまで村上春樹の短編、長編をこよなく愛読してきた自分も、ここ最近は、もしかしたら自分は『騙されていた』のではないか、と疑いたくなることがあったのは事実です。

とくに『騎士団長殺し』と『一人称単数』を読んでからというものは。騙されていた、とまでは言わないでも、少なくとも『魔法は解けてしまった』のは本当ではないか、と思ったのです。そして、それは本当なのです。

けれども、加藤典洋が短編、長編を、読み込みながら考えてきたこと、そして、彫り出してきた村上春樹の姿は、私が思い描いていたよりも、ずっと大きく、誠実な、夏目漱石と通ずる稀有な作家の姿でした。