読書「漱石のこころ」
先日、早稲田にある漱石山房記念館に行ってきた。
昔から、漱石が好きだったけれど、さらに親しみを感じた。
「坊っちゃん」の諷刺の矛先が、山縣有朋、伊藤博文、桂太郎に向けられているというのは知らなかった(常識なのか?)ので、面白く読んだ。ヘーゲル哲学との関わりについては、もう一つピンとこず、よく分からなかったが、漱石がロンドン留学中に、「味の素=グルタミン酸」を発見した池田菊苗という化学者と接点があったという話や、漱石が読んだ本の書き込みから思考の軌跡を辿るあたりは、非常に引き込まれた。
漱石の研究本は数有れど、もっと読んでみたいという気にさせられた。
後半の「こころ」の「先生の自殺」と「時代精神」についての考察は、少し駆け足すぎるし、強引すぎるし、という印象だった。締めくくりに大江健三郎の「読み直し」という視点を持ってくるのも唐突だと感じた。とはいえ、山縣有朋や森鴎外のスパイ疑惑には好奇心をくすぐられたし、100年という時間の中で「漱石を捉え直す」人文的な試みへの情熱には非常に共感できた。
じっくり読める一冊である。